「私たちが大切にするのは、今週末の試合結果や、来週月曜の選手メンバー表でしょうか? それとも、10年後の選手たちの豊かな人生でしょうか」

 

昨日、スペインサッカーのトップクラブ・ビジャレアルC.F.で指導・育成にあたる佐伯夕利子監督と、ジェフ市原や京都サンガ、さらにはフランス・グルノーブルでGMを歴任してきた祖母井秀隆さんをお引き合わせする、という、エキサイティングな時間を過ごしてきました。たまたま私が、双方の友人だったので。

 

『情熱とサッカーボールを抱きしめて』、2005年刊。私の情熱もいっぱい注ぎ込みました!
『情熱とサッカーボールを抱きしめて』、2005年刊。私の情熱もいっぱい注ぎ込みました!

 

ビジャレアルは、人口5万。サッカースタジアムの収容人員は2万5千。なんと人口の半分!
レアルマドリーやFCバルセロナのホームスタジアムの収容人員はたしか8万とか9万。
しかも世界中からトップ選手を、大枚はたいて連れてこられる。
そんなクラブと同じリーグで戦い、常に3~6位を目指し、だいたい達成している。
ちょっと、江口寿史が漫画にしていいくらいの、奇跡です。

 

スペインに18歳でわたってS級ライセンス(に相当する資格)を取得し、同国ナショナルリーグ百余年の歴史上で初の女性監督となった佐伯夕利子さんは、その後、アトレティコ・デ・マドリードや、F.C.バレンシアという名だたるビッグクラブを経て、現在はビジャレアルC.F.でもう7年にわたり指導・育成を続けています。

彼女がバレンシア在籍中に取材して本を書いた私は、その後ゆりちゃんがビジャレアルに居続けるのを見て、なにかきっと大きな魅力や学びがそこにあるのに違いないと感じていたのですが、昨日ようやくその理由がわかりました。

 

世界的に、サッカーを「ビジネス」として行う風潮が年々強まっています。
たとえば選手の育成ひとつをとっても、有名クラブなどでは、お金を払えば入学できる「習い事」としてのサッカースクールを世界的に展開する一方で、「選択と集中」とでもいわんばかりにトップクラスの選手を育成するアカデミーの数は減らして早期にふるい落としていくことが多いそう。

だけど人口5万のまちのビジャレアルでは、どんなへたっぴの子でも、トップチームと同じユニフォームを着て誇らしげにサッカーボールを蹴る、その喜びを感じてほしい。まち全体の文化として、サッカーのクオリティを維持し続けたい。
ということで、たとえば小学生カテゴリーでも、考えられないほどのチーム数があるそうです。
そして、ほとんどの子たちが、それぞれのレベルのカテゴリーで、毎週末に公式戦に出場している。

 

試合をしてこそ、「サッカーをしている」といえる。
試合にこそ、すべてがあるから。
そのことは、もともとプレーヤーであったゆりちゃん、そして、ルールもよくわからないままどんどんゴールを決めて全日本の決勝に出てしまった祖母井さんが、口を揃えて言います。

だけど、日本はどうでしょう?
強豪校や強豪クラブほど、50人、60人と選手を擁し、3年間で一度も公式戦に出られないこどもたちがたくさんいる。
でも練習試合は、やはり、公式戦ではない。
「サッカー人口○万人」と一口に言っても、その内実は、国によってまったく違う。
たいせつなのは、どれだけのひとが、本当に「サッカー」を楽しめている環境なのかということ。

 

トップチームの環境が良くなれば、末端までサッカー文化が育つ……なんていうことはない、と、本場ヨーロッパでのサッカー文化を深く知るふたりは、断言します。
草の根で深くサッカーが楽しまれてこそ、トップチームを支える強固な土台ができる。
経済と同様、サッカーという文化においても、「トリクルダウン」なんて実際にはあり得ない。
これは、非常に重要な指摘だと思いました。

 

およそ20年前、日本のJリーグにかかわることになった祖母井秀隆さん。
当時、こどもたちがサッカーの指導を受ける現場を見たら、ご両親に連れてこられた選手のきょうだいの女の子たちが、ただただ練習が終わるまで待たされていた。
それはあまりにかわいそうだから、その女の子たちが楽しんで時間をすごすことができるミニバスケなんかをしましょうよ。ドイツではそうやってますよ。
笑顔で提案したところ、みんなに思いっきりバカにされたそうです。

祖母井さん、頭がおかしいのではないですか。どうして、選手候補でもない、家族の、しかもちっちゃな女の子たちのケアまで、クラブがお金を出してしなきゃいけないんですか。

でも、プレーヤーの家族を我慢させる、その豊かな人生の人生に役立たないサッカーなんて、いったいどうしてする必要があるのか??
どうしてこんな当たり前ことが、わかってもらえないんだろう。
その怒りが、祖母井さんの原点にあるそうです。

 

ヨーロッパという「外」でありサッカーの「本場」の眼をもつふたりからの話は、現在のJリーグ、なでしこや学生たちや引退した選手のセカンドキャリア問題を含む日本サッカーの現状に及びました。
それはもう息を呑むような鋭さの、とても本質的な分析や指摘がたくさんあり、この場に同席された某Jリーグクラブの関係者さんも深く納得していたのですが、このあたりのニュアンス、ど素人の私ではうまく伝えられないので、残念ですが再録は諦めます。

メソッド・ダイレクターという新システムの整備など、現場にいながら世界の最先端のサッカー事情に触れ続けているため大きな潮流が見えている佐伯夕利子監督のお話は、いまの日本サッカーを良くしようという方なら、ぜひ知っておいて損はないはずです。

 

フットボール、なんのためにしているんだっけ。
フットボールを愛し抜き、その原点を常に忘れない、佐伯夕利子さんと祖母井秀隆さん。
合い通じるところがたくさんあったようです。よかったよかった。

そしてその問題意識は、まったくもってサッカーど素人の、でも全然ちがう観点から「ついつい個人よりも組織の利益が優先されがち/弱者が排除されがち」な日本に斬り込んでいこうと思っている無謀な私の考えていることとぴったり一致していて、膝を打ちすぎて真っ赤になってしまいました。

 

フットボールを愛する誰もが、フットボールを楽しめ、フットボールによって人生が豊かになる。
そういう環境になるよう、たぶんこのおふたりは、それぞれの道を切り拓いていってくださるはずです。

だって、現場で見て感じて、知ってしまったのだもの。
世界には、素敵なフットボールがあるということを。
見えてしまったのだもの。
もっとみんなを幸せにする、フットボールのあり方が。

 

本当に良い時間でした。

ゆりちゃん、うばさん、Sさん、マリアンちゃん、Hさん、ありがとうございました!!!

 

(あ、これ本当にたまたまなのですが、来週末の7月18日(土)午後19時半から、元町のEINSHOP神戸店で、祖母井さんをお迎えしてトークイベントをいたします。
無料だったりします。よろしければ、ぜひどぞ~。
詳細、わかりにくければ、info@lgaku.com (リベルタ学舎)までご連絡ください。)

もっとみんなを幸せにするサッカーのありかた-ヨーロッパサッカーを知る佐伯夕利子さん×祖母井秀隆さん

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