「みんながいつも同じ枠組みで賛否を論じていることを、別の視座から見ると別の様相が見えます」
内田樹先生の、何冊目目の本になるのだろう?
これは、語りおこして、書きおこした、というかたちでつくられたという。
発売前からものすごく売れていた。
ずっと気になっていて、自分の本が一段落して(でもまだ年賀状も書けていないのに)ようやく読んだ。
内田先生の本で、最初に読んだのは、『寝ながら学べる構造主義』。
スペインに住んでいたときだった。
読み終わってふと目を上げた瞬間、世界がまるっきり様相を変えて目に映り……つまり、光と輝きに満ちてキラキラしていたことを、すごく覚えている。
それまで、「リンゴは落ちるんでしょ、地球の引力に引っ張られてしょうがないんでしょ」という、
ニュートン力学的な、
「異論を挟みようのない科学(とか歴史とか)」という巨大で強固なものの前ではこちらの小さな命が蹴散らされて当然というような、
そんな諦念を呑み込んで、生きていた。
けど、それは、世界のひとつの見方や捉え方に過ぎないと知った。
自分から、世界を編み直して良いんだと、勇気をもらった。
内田先生のことを知らないひとに会うことも多い。
どこがいいの? と、率直に訊かれる。
あのね、世界と向かい合うときの、基本的な構えを、見せてくれるの。
そういうふうに答えていた。
今回、あとがきで、著者自身が答えていたのが、冒頭の言葉。
その「現場」に追い込まれちゃうと、イエスかノーかという選択しかできなくなる。
内田先生がたまに使うたとえが、「道の分かれ目に来ました。右に進むと人食い虎、左に進むと人食いワニ。さあどちらに行きますか?」
この問いに、内田先生はこう答える。
「その場に来た時点でもう間違っているよね。事前に危機を回避することはできなかったのか」
あなたがいま直面している問題は、果たして「問題」なのか?
それは誰かが、すごく狭いところにあなたを追い込んで、どちらをとっても苦しくなるような選択肢だけを見せているのではないか。
わーっと苦しめるものが覆いかぶさってきたら、いったん、深呼吸。
息のできるところを探そう。酸欠じゃ脳も身体も動かない……っていうか、死んじゃうから。
その「枠」から出て息をしてみると、意外と、「問題」は、「問題」じゃなかったりする。
この本は、とはいえ、前編にわたってしっかりと「各論」が書いてある。
政治のこと、組織論のこと、労働、知性、などなど。
でも、それぞれの各論の語られ方に、通底するのが、「別の視座から見る」という構えだ。
すべてのトピックがその実践例となっている。
そういうふうに、見れば、あなたの現在も、息苦しくなくなるよ。
そんなメッセージが、ぎゅうぎゅうに詰まっている。
というわけで、『寝ながら学べる構造主義』から私淑していた、
帰国後に合気道をつうじて「師」となった、
内田樹先生の、本でした。