ビジネスの「常識」について考えている。

今日のお昼は、一度お目にかかって以来そのお人柄と教育の実践に敬意を抱いているF社のHさんと、三宮ランチミーティング。
ずっと詳しく聞きたかった教育の話、そしてお仕事の話を、しゃにむに美味しいイタリアンをいただきながら。

で、支払いの段。お財布を出すと、Hさんが押しとどめて言った。
「こちらで」

そのとき私は、一瞬、「あ、ムスメが小学校から帰ってくるのに間に合うかしら」と考えていた。
まるで、ポーンと打ち上げられたなんてことないフライ球を取るために落下点に入って構えた外野選手が、見上げた空の青さに、つい田舎のおばあちゃんを思い出してしまったように。

「こちらで」
もう一度、Hさんの優しい声がして、ハッとした。
あ、そうか。

「はい、では、こちらで。失礼いたします。本日はありがとうございました」
お別れの挨拶だったんだ。
そう思って、お店を後にした。

早足で駅に着いて時刻表を見て間に合うのを確認して安堵したところで、気づいた。
ちゃうやん!
あれ、別れの挨拶ちゃうわ!
お店出たところで、あらためてお礼を述べるのが、マナーというか常識やん!!

 

トキすでに遅し。
ああ、学名ニッポニア・ニッポンは、絶滅したのだ。

 

私はたまたまヤフー・ジャパンに立ち上げからかかわったため、新卒で最古参という謎のポジションで、社会人生活をスタートさせた。
そのあとは、外国在住のフリーランスライター。
しかも、来た仕事をぽちぽち受けていただけで、自分から営業したり売り込んだことは(翻訳書の1冊を除いて)ないときたもんだ。

日本のビジネスのマナーが、なっていない。
さらには悪いことに、「常識」がだいぶスペイン寄りになっている。

だから、「早く着いては相手にご迷惑」と待ち合わせ時間に必死で遅れる(一度ちゃんと現場に行ってから、きっかり5分遅れになるまで汗だくで時間をつぶしたりする)。
いただきものをしたら、「この場で内容を確認して相手の目の前で喜ばなければ」と、ピカピカの包装紙をびりびり破って中身を取り出す。
暑苦しいほど親しげだ(※説明は長くなるので最後)。

 

でもあいにく、顔はふつうの日本人なので、「OH! コレがすぺいんデハ常識デシタ! ジャパンちがいまシタか?」が通用しない。
っていうか、帰国して5年が経つしね。
そろそろ日本の常識も覚えなきゃ。

 

というわけで、リベルタ学舎の代表として、本格的に「日本のビジネス」初体験中。
こいつは見ちゃいられないという心優しきジェントルマンたちにいろいろと教えられつつ、ひとつひとつ、覚えております。

というわけで、いっぱい失礼なことしてて、ごめんなさい~。

とかなんとか殊勝なことを言いながら、足元はまだどこに行くにも赤い鼻緒の草履。
これもやっぱり失礼なのかなあ?
……それ以前に、寒さとの闘いになりつつあるのだけどね。

 

※「暑苦しいほど親しげ」解説:

スペイン語には目の前の相手に呼びかける言葉として、”tú”(二人称=君)と”usted”(三人称=あなた)のふたつがある。
ラテンアメリカでは目の前のひとに”usted”で話しかけるのが基本だが、スペインでは”tú”。
有名シェフや商工会会頭に「あなた」と呼びかけると、「なんだよ水臭いな、『君』と呼んでくれよ」と怒られる、そういう土地柄。

以下は、推論。
おそらく、植民地ではスペイン語で”usted”と呼びかけられるばかりのスペイン人にとって、フランクに”tú”で内輪の会話をするというのが、伝統的に宗主国的な振る舞いだったのではないだろうか。
「オレたちはさぁ、宗主国だからさー! で、あんたたち、誰?」みたいな。

 

 

暑苦しいほど親しげだ。

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