たとえば、小学校(国民学校)での遠足は前夜にわらじを2足編み、片道20km、行きに1足履きつぶして、帰りに新しいのをおろして履いてきた。これは、いま70代の私の父の話。
たとえば、戦後の混乱期、田舎の農家さんのところに買い出しに行く母親に連れられ、「こどもの方が見つからんけん」と、虚弱体質の5、6歳児が、リュックにぱんぱんに米や野菜をつめたものを背負わされた。これは(いまでも体重が38kgしかない)母の話。
有名な話では、たしかドラマ「おしん」のモデルとなった女性の母親も、去年大河ドラマの主役となった新島八重も、米俵を運ぶ仕事をしていたはずだ。米俵は一俵60kg。下は、物語の舞台となった庄内地方・山居倉庫に展示されている写真とか。
体重や身長なら、いまの私たちの方がずっと「優れて」いる。でも、「重しとして自転車をただ担いで六甲山系縦走往復100km以上を駆け抜ける」という余程の変わり者(実在)でもないかぎり、「こどもの本気遠足」や「おばちゃん米俵300kg」は、なんだかすごい隔絶感のある話だろう。「そんなのムリ!」、です。
「いや、もっと身体の小さな昔のひとですらできていたんだから、私たちも頑張ればできる!」……なんて、某サッカー解説者のような精神論で片付けるつもりはありません。
こちとら40歳、自分自身が米俵くらいの体重があるけれど、27歳から立派なギックリ腰ホルダー。少しでも生活にムリが出ると、いきなり腰痛に襲われ、日常生活がフリーズする、という爆弾を抱えた生活です。
では、どうすればよいのか。
もっとも身近な「古代人」、古武術家の甲野善紀先生の近くにいさせていただく機会も増えたこともあって、その身体の使い方を、言葉も含めて考えると……
キーワードは、「つなぐ」
です。
人間のからだは、約60兆の細胞でできているといいます。
とてもざっくりとですが、いま地球上に70億の人間がいるので、ひとりひとりが分身の術で850人ずつに増えたくらいの数が、ヒトの身体の中にはひしめきあっていることになります。
わ、多いな!!
それらのすべてが、つながっている。(抜け毛やウン○を「自分の身体」と言わないならね)
いまふと思い出したのが、衝撃に強いことで知られる、ハチの巣をモデルとしたハニカム構造。あんなかんじですね、たぶん。
つながっているヒトの身体を、ちゃんとつなげて使えば、ものすごく大きな力になります。300kgだって、60兆で割れば……計算できないけど、ちいさな重さになります。できるだけ負荷を散らしちゃえばよさそうです。
だけど、現代人の身体の使い方は、「ヒンジ運動」になることが多い。これは、合気道の師である内田樹先生が、よく言われることです。
たとえば、腕は、肩を支点にしてその先をカクカク動かす。たまに見かける、道路工事中に置かれる作業員姿の看板で、誘導灯をもった手が行ったり来たりしているタイプ。あんなイメージですね。
でもほんとうの人間の身体は、プラモデルみたいに、あるいは自動車や機械みたいに、それぞれにつくったパーツを組み合わせてつくったものではありません。
つながって、補いあって、ここにある。
ここで大切になるのは、個々のパーツのスペックではなくて、全体が一体となったときに実現できる機能です。「背の高さ世界一」や「太ももの太さ世界一」を目指すなら別だけど、ふつうは、「いかに日常生活を元気に過ごすか」が、生きるうえでいちばん大切だもんね。
アスリートも同じ。故障したら、パフォーマンスどころではないのですから。いやもちろん、そういう「穏やかな日常生活」をある程度犠牲にしてまでその競技向けの身体をつくっていくこともあろうかと思いますが……。
(このあたりのバランス感覚は、ラグビー元日本代表の平尾剛さんに今度うかがってみましょう)
「つなぐ」を考えたとき、出てきたのが、「股関節」というキーワードです。
力士がしこを踏む、イチローがバッターボックスに入る前に両足と膝をガッと開いて深く肩を入れる(合気道の準備運動でもおなじことをします)、サッカー選手がピッチに入る前にももをを高く上げて付け根のあたりをぐるぐるまわす。ぜんぶ、股関節です。
股関節は、「鍛える」ものではありません。関節だもの。股関節は「上手に使う」ものです。
股関節は、下半身と上半身をつなぐものです。上手に使えば、下半身に集中していた負荷(たとえば膝)が分散され、上半身に集中していた負荷(たとえば腰)が分散されて、長くご機嫌に、自分の身体が動くようになります。
今回、「股関節スペシャルワークショップをやってください!」と講師に懇願した岡田慎一郎さんは、少しもマッチョでない、笑顔の穏やかな小柄な男性です。お仕事は介護士さん。
介護というのは、いま注目を集めていますが、ほんとうに身体的な大変さをともないます。自分以上の体重があるひとを、起こしたり、寝かせたり、支えて歩かせたり。それが毎日続きます。
赤ちゃんの抱っこでも手首や腰にくるのに、今度は相手が大人です。
自分の身体をこわすことなく、この日常を続けるために、「技術」が大きく助けてくれます。岡田慎一郎さんは、介護の現場の惨状をみて、甲野善紀さんの教えをもとに、古武術を介護に活かすためのメソッドを考案し、いま圧倒的な支持を受けています。
誰にでもある股関節。それを「上手に使う」ことで、身体は何倍ものパフォーマンスを発揮します。昔のひとだけじゃありません。ヒトの身体は、とっても偉いんです!
ということで行う次回イベントは、「あなたの身体の『偉さ』を再発見する、股関節スペシャルワークショップ」となっています。
岡田先生は、NHKやユーキャンで人気講座をもっているように、とにかく教えるのが上手。今回はとくに「日常生活での再現性」を重視し、ふだんの暮らしのなかで、遊びのなかで、股関節を上手につかうコツを、楽しみながら90分でしっかり体得していただけるプログラムになっています。
その瞬間から「生きる力を高める」に直結する学びでないと、リベルタ学舎ではありませんから。
そして、トップアスリートで、身体の使い方から心のもちかた、生き方まで真摯な考察をつづける「哲学するラガーマン」、ラグビー元日本代表の、平尾剛さんに、スペシャルゲストでお越しいただきます!
アスリートにとっての「股関節」を、誰よりも説得力ある言葉で語ってくださるはずです。
ちなみに、平尾さんは、世界一のナイスガイと私・湯川が考える3人のうちのおひとりです。平尾さんに触れるだけでも、来る甲斐ありますよ!
というわけで、めっちゃめちゃおすすめの内容です。
終了後にたっぷりお茶会の時間があったり(茶菓つき)、畳製作所なので、畳の織機をつかってみたりちょっと織ってみたりの体験もできたり、天然イグサの小物プレゼントがあったり、なんだかわけのわからない豪華なおまけがいっぱいついていますが、それはまた後日。
来てね! 待ってまーっす。
(ワークショップ詳細)http://ow.ly/ysAaE
(お申し込み)http://ow.ly/ysAdD